虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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2019年4月に読んだものメモ
  • フランシス・ハーディング『カッコーの歌』(訳:児玉敦子/東京創元社,2019年1月/原書:Frances Hardinge "Cockoo Song" Macmillan Childeren's Books, 2014年)
     語り手の少女の記憶がおぼろげでなにがなにやら、というところから始まり、序盤はずっと異常な状況下で不穏と不安がわだかまるような息苦しい雰囲気が続いていくけど、事情が見えてくるに従い、物語はどんどん加速していく怒涛の展開に。よくあるパターンだと脇役ポジションに置かれるような子の視点で話が進むのが目から鱗で「そう来たか!」って思った。懸命に粘り強く事態を打開しようとがんばる姿が健気で応援したくなる。最初は主人公への態度が酷かった奔放な妹ちゃんも、だんだんその率直さが好きになってくる。主役を含めて、どの登場人物にも最初に出てきたときの印象とは違う側面があり、その部分に対して作中では善悪のジャッジがくだされない。すべてを切り分けず切り捨てず、包括していく感じ。日常のすぐ隣にある異形のものたちの暮らす場所の存在がまざまざと脳内で映像化されて背筋がぞわっとするんだけど、同時に、恐ろしく不気味なものの向こう側を見据えた奥には、それでも目をそらすことのできない魅力的ななにかがあるのだ、そういった多層性の提示が世界を豊潤にしているのだというようなことを読みながら考えていた。

  • 小野秀樹『中国人のこころ 「ことば」からみる思考と感覚』(集英社新書,2018年12月)
     あいづちやあいさつなど、ちょっとした言葉の使い方に潜む考え方や感性について、具体的な実例が多く挙げられていて面白かったです。そこそこ心当たりのある話も。特に終盤の「有点儿」の用例について説明したくだりで、これまでずっと少し疑問に思っていて複数の中国人のひとに質問したけどいまいち納得いく答えがもらえてなかった(時には、なにに引っかかっているのかすら分かってもらえなかった)、まさにその点がすっきりと整理され説明されており、ひとまず私のなかで決着がつきました。日本語ネイティブスピーカーが中国語学習中にそこはかとなく感じる戸惑いへの答えは、日本語ネイティブな中国語達人に教えてもらうのが近道だったんだ。ありがとうございます。

  • 絲山秋子『夢も見ずに眠った。』(河出書房新社,2019年1月)
     一組の男女の、24年間にわたる夫婦であったりなかったりの軌跡。惹かれあうところ、歯車が合わないところ、それぞれの抱える欠落と特別さ、タイミングの皮肉といったものがただ静かに提示され、互いに大切な存在でありつつ分かりやすい関係には落ち着けない流れに、一抹の寂しさ、そして開放感が。ふたりのうち一方が鬱病になったときの描写にやたら説得力があったのと、舞台となるさまざまな場所に関するうんちくが詳しくて興味をかきたてられたのが印象深かった。

  • 絲山秋子『絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない』(日本評論社,2019年3月)
     この著者の小説やエッセイ集をちょこちょこ読んではいたけど、本書を手にとるまで絲山さんご自身がASDの特性を有し、双極性障害とつきあいながら生活してらっしゃるというのは知らなかったのです。平易な文章でいろいろ書いてくださっていて、現時点でメンタル不調の診断を下されていない者にも、コンディションを整えるために実践してらっしゃるノウハウなどはかなり参考になるのでは。また、当事者周囲の人間がどういうスタンスでいればいいのかのヒントも与えられたように感じます。カウンセリングでかえって混乱がもたらされ体調改善にはつながらなかったという記述なども、なるほどそういうこともあるのか、使いどころを見極めないといけないんだなと勉強になりました。「躁」のときの状態を当人の視点から語ることの難しさが吐露された部分では、その、プロの作家さんでも難しいのだという事実そのものに蒙を啓かれる思いが。

  • 原武史+三浦しをん『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』(角川書店,2019年2月)
     個人的には思いも寄らなかった組み合わせのおふたりによる、5回にわたる対談(「遠足」1回を含む)。ちょうど「生前退位」の意向が発表された2016年夏から、いよいよ平成の終わりが見えてきた2018年夏の時期の企画で、天皇家の歴史を研究している原さんに三浦さんがどんどん率直な疑問をぶつけていく流れに。ぽやぽやした私などは、最初に「お気持ち表明」の話が出たときも、「そりゃまあ、そろそろ隠居したいお歳でしょうしね」くらいの感想しかなかったんですが、原さんは直後から、事態の特異さ、このことが政治利用される可能性など、すごい脳味噌高速回転って感じで思い至ってらして、それを三浦さんが、うまく噛み砕いた言葉で引き出すように持ってってる。三浦さんってほんとインタビューお上手ですよね……。昭和天皇の政治的立ち回りとか、過去の皇后たちのポジションとか、いままで正直あまり考えてなかった視点が得られて興味深かった。そしてその合間合間に挟まれる、原さんの鉄オタトーク、団地オタトーク。これもお相手が三浦さんだったからこそ拾えているんじゃないかな。こういう発言がしっかり収録されてることで、対談の記録がぐっと活き活きする感じ。

  • 植本一子『フェルメール』(ナナロク社 BlueSheep,2018年10月)
     欧米各地のフェルメール全作品を、可能なかぎり所蔵している美術館のある現地に行って鑑賞し撮影するという贅沢な企画(反面、かなりの強行軍なのでせっかく海外の街を訪れたのにほぼ美術館しか見ずに離脱してる日もあって、もったいなくもある)。作品たちが普段どんなところで、どんなふうに人々の視線を受けているのかといったことは、そういえば絵画そのものにばかり意識が行ってて、深く考えたことなかったかも。掛けられた壁の色は? 窓からの光はどう入る? 日本のよくある美術展示とは照明センスが異なる施設も。たしかに、日本で作品が集められ開催される展覧会とはまた、見え方が違いそうです。
     いつも直感に牽引される繊細で奔放な筆致が印象的な植本さんが、撮影とコメントを両方担当。敢えて予備知識を仕入れないまま作品と対峙するのだけれど、さすがプロの写真家、構図や光の描写などについて初見でもツボを押さえた感想が。一方で、あの「真珠の耳飾りの少女」を観て、タイトルにある真珠に着目せずに外に出てしまったことにあとで気付いたりと豪快なエピソードも。まあ、あの少女は印刷物で見ても目力が強すぎですもの! 視線が合ったらもうそこばっかりになる感じは分かる。一般公開されていないバッキンガム宮殿内の作品を観に行くときは、撮影者として入るだけでもドレスコードがある、なんていうこまごまとした話も面白かった。


  • 中島恵『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ,2018年12月)
     タイトルどおり、近年ますます増えている日本で生活する中国人に取材。具体的に突っ込んだ話がたくさん出てきて興味深い。同じ場を共有する一方で、評価の高い中華料理店がまったく重ならなかったりと、同じ街にいても日本人同士、中国人同士で固まりがちである面などにも指摘が。全体的に、どんどん経済的に発展しつつある中国から来た人たちは、ほぼ皆さんすごくパワーとバイタリティがあって、お子さんの教育にも(一般的な日本人感覚で言えば極端にも思えるほど)熱心で。休む暇もなく努力と研鑽を続けコネクションを作っていくのが当たり前のような価値観で。圧倒される。中国が、人口が多いなかでの競争社会なのだということがよく分かる。ただ最後のほうで、社交的な性格ではなく一人で静かにお茶することで英気を養うタイプの人が、だから日本のほうが暮らしやすいと言っている例なども紹介されており、ですよね、中国広いし、そういう人もいますよねって、なんかホッとした(笑)。もちろんその人だって国境と言語の壁を越えて居場所を確保できるだけの優秀さは備えているわけだけど。そして接するときにはお互い、中国人はこう日本人はこうといった一括的な捉え方をせず個人として対話していこうという、著者による締めくくりが身に沁みた。
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2019年3月に読んだものメモ
  • フィリップ・リーヴ『移動都市』(訳:安野玲/創元SF文庫,2006年9月/原書:Philip Reeve "Mortal Engines" 2001年)
     映画がすごく面白そうだったのですが近場でやってなくて機会を逃してしまったので、とりあえず原作小説を読んだ。とにかく都市が疾走し都市を喰らうというイメージが強烈。これに尽きる。機械仕掛けのなかに、現代の現実の町並みの特徴が混じり込むのも読んでてテンション上がる。主役の少年少女たちが、よい子すぎず、かといってひねくれすぎてもおらず、自然に肩入れしたくなる。大人キャラもアクが強く面白い。映画版も、トレイラーを見たかぎりでは、かなり気合を入れて映像化してるみたいだし、大画面で観たかったなあ。

  • 山口恵似子『おばちゃん介護道 独身・還暦作家、91歳母を看る』(大和出版,2018年11月)
     以前読んだ同じ著者の小説のヒロインが、このお母さまをモデルにしてるということで、それ読んだときも思ったんだけど、本当に著者はお母さまのことが大好きなんですね。だからこそ頼りにしていた相手が弱ってきて、どんなにか心細かったことだろう。気丈に献身的に介護を続ける日々の記録にも、体調不良に気を揉み、少しでも食事ができれば心から喜び……といった気持ちが切実ににじみ出ている。その一方で、自分がそんなふうに母娘で仲良しなのは、あくまでも相性によるもので、距離をあけたほうがいい親子関係だってあって、それもぜんぜん悪くないんだということを真摯に語っているくだりもあり、これまでの人生経験でいろいろ見てきてらっしゃるんだろうなーって感じ。ちょこちょこ入る「DV猫」さんたちのお話は、振り回されていても悲壮感なくてホッとする。

  • 飛浩隆『零號琴』(早川書房,2018年10月)
     初めて出会うようでいてどこか懐かしいような遥か未来の宇宙で、鮮やかなイメージがこちらに向かってぶつかってくるのに圧倒され押し流される感覚を味わった。作中の音楽や概念に、なんだか手で触れているかのごとき質感や重量感を覚えて、言葉に言葉が二重写しになって隠されていたものが顕現していく過程をわくわくしつつも息詰まる心持ちで読んだ。いくつもの層が積み重なった世界を、キャラクターたちは軽妙にたくましく生き抜いていて、彼らみんなのこれまでやこれからがとても知りたくなったけど、知らずにいるのもそれはそれで……という気もする。

  • Cixin Liu "Ball Lightning"(訳:Joel Martinsen/Head of Zeus, 2018年8月/底本:Tor Books, 2018年8月/原書:刘慈欣《球状闪电》四川科学技术出版社,2005年6月)
     14歳の誕生日に、突如発生した球電現象に伴い不可解な状況で両親を失った主人公・陈は、この特異な自然現象の正体を知るため研究の道に進むが、やがて武器を手にすることに異様なほどこだわる軍属の女性・林云に出会ったことをきっかけに、単なる気象研究の域を超えて、国の兵器開発プロジェクトに巻き込まれていく。試行錯誤を繰り返しながらこの世の法則を新たに見出そうとしていく際の、目指すところにたどり着けないのではという絶望が、光明が見えたときの興奮に変わっていくプロセスに引き込まれつつ、一方では「知りたい」という単純な欲求の成果が人殺しに転用されてしまうことや、惹かれた相手が殺戮行為に「美」を見出していることに対する陈博士の葛藤もトレースすることになる。全体的には殺伐とした世界なんだけど、最後にはロマンティックで感傷的な余韻も。
     一応、電子書籍内の情報だとこの英訳版は最初2016年にTor Booksから出版されたことになっているんですが、Torのウェブサイトによると、初刊行も2018年のようです。


  • チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(訳:斉藤真理子/筑摩書房,2018年12月/原書:조남주(Cho Nam-joo)『82년생 김지영(Kim Jiyoung Born in 1982)』Minumsa Publishing Co., Ltd., 2016年)
     真面目に堅実に生きてきた女性が、社会からの「女性」へのプレッシャーにじわじわやられていく過程が淡々と語られる。ひとつひとつの事例が、ああ日本でもあるよね、ありうるよね……と驚くほど似通っていて、自分の過ぎ来し方のあれこれも想起してしまう。
     私は作者やこの主人公よりも上の世代で、まあ隣接する国同士とはいえ前提条件は違うだろうけど、でも主人公の母親や女性上司が、娘や部下がやりたいことをやろうとするのを応援する姿勢を見せているのは、心強いよねって読んでる途中では思っていました。私自身は若い頃、性別を理由に活動に制限をくらった場合に、上の世代の女性からそういうふうに個人としての意思の存在を肯定されたという実感は正直あまりないので。でも結局この作品のなかでも、がんばってたはずのほかの女性たちだってしんどい状況に追いやられていくし、主人公をサポートしてくれようとした善良な男性たちにだって理解の限界があったりする。そして最後の一文にこめられた、いっそ小気味よいくらいの皮肉。
     現在の私はもう、自分自身のためにはすでに戦うことをほぼ諦めてしまってぬるま湯に浸かっている自覚がある臆病者だけど、せめて下の世代に古い価値観を継承することだけはしないよう、ここで断絶できるよう目の届く範囲では心がけなければと、現状ではさほど状況改善に貢献できていないうしろめたさとともに、改めて考えました。作中の、はっきりと過酷で理不尽な環境を生き抜いてきた上の世代の女性たちが、決してそれを若い世代にも押し付けようとはしていないところに作者の抱く希望を見るのは楽観的に過ぎるだろうか。少しずつだけど時代は動く。こういう作品が世に出て広く読まれることも含めて。
     あと、キム・ジヨン氏が作中冒頭のような状況になるのって、一見「壊れて」いるんだけど、その周囲を困惑させる壊れ方自体が、それまでの積み重ねへの反撃になっており、フィクションとしては軽妙さが感じられてちょっと痛快でもあるんだよな。


  • 西岡文彦『語りたくなるフェルメール 教養としての名画鑑賞』(角川書店,2018年12月)
     現存する作品を、たとえば登場人物の顔で分類して、同じ顔立ちの女性が何度も出てくることを確認し、さまざまな背景要素からフェルメールとの関係を推測したり。題材へのまなざしや構図、光の当て方から、この時代の新しい思想や生活感覚を読み解いたり。「こういう作品がありますよ」という入門段階からもう少し踏み込んだ感じの、初心者向けガイダンス。図版の入れ方が異様に親切(話題に上るたびに同じ図が出てきたりもするので最初は重複しすぎでは? って思ったけど、たしかに分かりやすいのは分かりやすい)。


  • よしながふみ『きのう何食べた?』第15巻(講談社,2019年3月)
     よそんちの子に久々に会うと一気に大きくなってて「文章でしゃべった!」ってすごい分かる(笑)。つい最近自分も入学祝い問題で悩んだので筧先生に超共感です。お菓子作りに目覚めた千波さんはこの巻でも自分が作ったおかずは不味いと思ってるんだなとか、ケンちゃん担当の夕食は自制したバージョンでもやっぱり筧先生のメニューよりは微妙にこってりしてるよなとか、相変わらずキャラと紹介されるレシピが矛盾しないのが好き。よそんちの子が大きくなっていく一方で、自分の親もだんだん歳をとっていって、今後のことを真面目に考えざるをえなくなっていく流れとか、もう本当にそうですよねって感じで。1巻のまだ若々しかった頃から考えると、ここまで来たか、と主役のふたりを近所の知り合いみたいに思ってしまう。

  • あしべゆうほ『クリスタル☆ドラゴン』第29巻(秋田書店,2019年3月)
     アリアンロッドのなかに秘められた力は、どう発現していくのかまだまだ分からんですね。グリフィスは、薄々やばいことを分かっていてもバラーへの忠誠は揺らがないのだなあ。どんどん、あちこちにちらばってた物語の要素が集結していく感じ。

  • 獸木野生『PALM 41 Task VI』(新書館,2019年4月)
     存在そのものが薄れてきているジョゼからの、フロイドへの信頼が切ない。ふたりで幸せになってほしいけど無理っぽいよう。そしてその謎の化学物質は、どう物語に絡んでいくんですか、その最後のページはなんなんですか、というところでたぶん1年後に出る次の巻へ。
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2019年2月に読んだものメモ
  • フランシス・ハーディング『嘘の木』(訳:児玉敦子/東京創元社,2017年10月/原書:Frances Hardinge "The Lie Tree" 2015, Macmillan Childeren's Books)
     ヴィクトリア朝時代。14歳の少女が、敬愛していた父親の死の謎を遺された不思議な木の力を使い探ろうとする。聡明で向学心があっても女の子だという理由でその素質を抑圧される時代に、知略を尽くした「嘘」によって暗躍し目的に近づいていく主人公に、はらはらしつつも肩入れしてしまう。主人公の視野の広がりに応じて、周囲の大人の女性たちにも、よくも悪くもそれぞれのしたたかさがあることが見えてくるのがよかった。「木」の存在があるからジャンル的にはファンタジーなんだろうけど、読後感的にはミステリ好きの人にもおすすめしたい。

  • 乾石智子『青炎の剣士 紐結びの魔道師掘戞陛豕創元社,2019年2月)
     同時進行していた厄介事が片付いていく完結編。魔道師だけど腕っぷしも強い主人公エンスが、本当に頼りがいと人間味のある性根の明るい人なので、邪悪な誘惑や陰惨な思念に絡め取られることはないと信じられるの心強い。この境地に達するまでに、これまでに語られた以上にいろいろしんどい経験もしてそうですよね、この人。ユース少年の健やかな成長もよかったし、〈思索の蜥蜴〉ダンダンが可愛さを保ったまんまで進化(?)していくのもわくわくした。人知を超えた現象が発動するときの描写の迫力と美しさはこの著者ならでは。

  • 櫻木みわ『うつくしい繭』(講談社,2018年12月)
     それぞれ東ティモール、ラオス、南インド、九州の南西諸島を舞台とした、微妙に接点のあるお話が4つ。現地の生々しい空気が感じられるリアリティと、そこに重なる浮遊感のある緻密で幻想的な描写、自他の記憶への希求に引き込まれる。各短編のタイトルも美しい。

  • Cixin Liu "The Weight of Memories" (訳:Ken Liu/Tor Books, 2016年8月/原文:刘慈欣《人生》〔作品集《2018》所収/江苏凤凰文艺出版社,2014年11月〕)
     私はKindle版を買いましたが、ウェブマガジン(という括りでいいのかな?)Tor.comに掲載されたバージョンもまだ読めます。母と子の対話で始まり、違和感が出てきたところで状況が明かされ、シニカルな結末へ。SF要素よりも、地方の貧しい農村で育った母親の回顧パートが、こういうのリアルにあった(ある?)んだろうなと思わせてきつい。


  • 張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第1巻(KADOKAWA,2018年11月)
     読了:張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第1巻 - 最初のエピソードだけウェブで読んだことあって、単行本にまとまっていることを最近知った。「捜神記」(4世紀に東晋で書かれた小説)の内容を知らないので、今後の展開も分からぬまま、狐さんかわいい、かわいそう、面白い、と無心に楽しんでいます。
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2019年1月に読んだものメモ
  • 倉田タカシ『うなぎばか』(早川書房,2018年7月)
     うなぎ絶滅後の世界を舞台とした5つの連作短編。うなぎの妙なる美味しさ、うなぎを救えない日本人の愚かさ、うなぎを大切に偲ぶ者たちのせつない思い、うなぎの墓を自認するうなぎ型ロボットのけなげさ……。もどかしさと、焦燥感と、希望がないまぜになる読後感。

  • 大友義博(監修・解説補遺)『フェルメール 生涯の謎と全作品』(解説執筆:池畑成功,伊藤あゆみ,植田裕子,岡田大/宝島社,2015年10月)
     タイトルそのまんまの本。作品鑑賞の手引きに加え、フェルメールの一生、時代背景、同時代のオランダの画家の簡単な紹介、世間を騒がせた盗難事件や贋作事件の概要まで、ひととおりの知識を分かりやすくまとめてくれてる入門書。『魅惑のフェルメール全仕事』(2015年1月刊,宝島社TJMOOK)を加筆修正・再構成して改題したもの。

  • 小林頼子+朽木ゆり子『謎解きフェルメール』(新潮社, 2003年6月)
     やはり作品鑑賞の入門書だけど、フェルメールの故郷デルフトの案内ページなどもあり。全体として文章が少し口語的に砕けていて、好みが分かれるかも。制作当時の状況や作品の真贋に関して、小林先生がご自分の意見をずばずば表明するのが楽しい。いま上野でやってる展覧会に来てた「赤い帽子の娘」(12月に引き上げられたので、1月に行った私は観ていません)は、普通にフェルメールの作として展示されてたみたいだけど、小林先生は作品の質自体は評価しつつ、フェルメール作ではなさそうという立場をとっておられるんですよね(奥付を見たら古い本だったので、あとで比較的最近の小林先生の本もちらっと見てスタンスが変わっていないことを確認しました)。

  • 篠田節子『鏡の背面』(集英社,2018年7月)
     さまざまな背景のある女性たちが頼りにし、信じて見上げていた人が、実は「その人」ではなかった、という発端から、新たに判明した事実によって外堀がどんどん埋まっていくなかで、むしろ「その人」とは、そして「もとの人」とはなんなのか……と、ひとの人格部分に対する認識のゆらぎが常に存在し、強まっていくのがスリリング。視点人物側からは古い価値観のゲスなおじさんという位置づけにされているキャラクターに、作者がわりと最初からそれでも憎めない、彼なりの倫理と誠実さの分かる描写を付加しているのも印象的でした。

  • 姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋,2018年7月)
     現実に起こった事件にインスパイアされたフィクション。出版されてすぐの頃にあちこちで話題になっていたんだけど、精神的にすごいダメージを喰らいそうな予感がしてずっと腰が引けていた。まあ案の定、ぐったりしています。
     被害者側と加害者側から、事件までの過程と背景を俯瞰的かつ分析的に追っていく。平凡な女の子を自認し心やさしく世間狭く自己評価過小気味の謙虚さを身につけて育った被害者と、エリート層として自分に疑問を持ったり社会的に自分より下とみなした他人の内面を慮ったりする暇を切り捨て効率的に育った、悪気のない加害者たち。その悪気のなさと両者間の断絶に心を削られる。最後まで自分のやったことの重みを実感できない加害者側の無邪気さにより読んでいるこちらにも、自分だって立場の違う誰かに対して想像力のなさや思慮の浅さに起因する加害をしてしまっているのではないかという怖さが突き刺さる。


  • 星野ルネ『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』(毎日新聞出版,2018年8月)
     時々ツイッターでRT回ってきてたかただ! 書籍でまとめ読みできたんだ! と、今頃気付いて。カメルーン生まれで4歳直前から日本に住み、ふたつの国のあいだを行き来している作者が、そのルーツと生い立ちに起因する幼少期からの特別な体験をシェアしてくれたり、日本の大多数の人が抱きがちであるステレオタイプな認識を嫌味なく指摘してくれたり。とても明るく聡明なご両親のもと、健やかかつ伸びやかに広い視野で育ったことがうかがえる、笑いのテンポも軽快でハッピーな1冊。

  • 杜康潤『孔明のヨメ。』第9巻(芳文社,2019年1月)
     徐庶が母親を人質に取られて劉備のもとを離れる巻。徐ママが白井三国志バージョンみたいな不死身の猛烈婆さんだったら心穏やかに読めるのにって泣いたけど(脳内混線)、こっちのお母さまもお強い。主人公側からは敵方だけど色男な策士・郭嘉さん逝去も寂しい。
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2018年12月に読んだものメモ
2019年もよろしくお願い申し上げます。


  • 多和田葉子『穴あきエフの初恋祭り』(文藝春秋,2018年10月)
     自分がいる「いま、ここ」に、うまく馴染めていなくて、ずれた位相のとこで暮らしている登場人物の視点で、主観的に入ってくる外界認識を言葉に置き換えて、その言葉でジャグリングをしているような短編集。私には説明が難しいが、たしかに存在する面白さ。

  • 三浦しをん『ののはな通信』(角川書店,2018年5月)
     足掛け27年にわたる、「のの」と「はな」の書簡集(後半はメール)。同級生として毎日のように顔を合わせていた多感な少女期の文通から、それぞれの道が分かれて直接会うことはない大人の女性同士としてのやりとりまで。ふたりのうち、むしろ無邪気なお嬢さま気質と思われた「はな」のほうが、最終的にその核の部分にあった強靭さを発現させて苛烈な選択に向かい、「のの」は「のの」で真摯にプロフェッショナルに自分の力で人生を歩む。思春期のごく短い期間に最高に純粋で曇りない輝くような恋愛を共有したふたりの、その後おそらく死ぬまで上書きされることのない、強烈で濃密な精神的つながりと、それでもともにあることはできない/しないやるせなさ。物語の始まりのところ、1通目の少女時代のお手紙のなかで『日出処の天子』最終回への言及があるのは、最後まで読むと暗示的なものを感じて、なるほどと思う。

  • 呉明益『自転車泥棒』(訳:天野健太郎/文藝春秋,2018年11月/原書:吳明益『單車失竊記 The Stolen Bicycle』,麥田出版社,2015年7月)
     父親が自転車とともに失踪したことをきっかけに古いモデルの自転車を収集し復元するマニアとなった主人公のもとに、20年の時を経てその父が乗っていた自転車が現れる。家族の過去と現在、自転車を媒介に知り合った人々の記憶、戦時下の凄まじい体験、蝶に関する思い出、ゾウがつなぐ縁……さまざまな物語が詳細だけど淡々とした筆致で、しかし時にがつんと鮮烈なフレーズを伴い、次々と繰り出され展開する。個人的な視点で綴られつつも、台湾の複雑な歴史的・民族的背景がぶわっと浮き上がってくる。そして最後には静謐な美しいものを堪能したという心持ちに。
     ここから読書感想じゃないんですけど、翻訳をなさった天野健太郎さんが、本書の刊行直後の11月12日に急逝されたという報道があり、ご病気だったことも存じ上げなかったので、とても驚きました。こういった読み応えのある小説から絵本まで幅広く手がけておられて、直接やりとりさせていただいたことはなかったけど、私がツイッターに書いた拙い読書感想メモに「いいね」をつけてくださって「ひええ、お目汚しを」と、おののいたりしたこともありました。これからも台湾を中心に中国語圏の面白い本をいっぱい紹介してくださるものだと思い込んでいたので、とても残念です。ご冥福をお祈りします。


  • 島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋,2018年5月)
     父親殺害で逮捕された女子大生と面会を重ねる臨床心理士の女性が主人公。殺人者の心理を探っていくはずが、自身のなかにあった問題とも向き合うことになっていく。異性であっても恋愛とは違う部分で同じ心を分かち合う同志のような存在と出会うのって奇跡的なことかもしれないけど、その同じ心というのが歪みを含んでいて傷つけあう結果になり、しかしそこをすべて包み込んで健やかで穏やかな方向に引っ張ってくれる別個の存在もいて、というの希望を感じる構図だなー、と思ったり。第159回(2018年上半期)直木賞受賞作。
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